医学文献を検索しながら、それを少しづつここに記載していってみます。そこから何が見えてくるかですが.......
(文献を年代順に並べて編集する作業まで手が回らない為、ここにはランダムな形での情報提供とさせていただきます)
◇2017年 Sanja Schreiber et al : Schroth physiotherapeutic scoliosis -specific exerises for adolescent idiopathic scoliosis ; how many patients require treatment to prevent one deterioraton? - results from a randomized controlled trial - SOSORT 2017 Award Winner. Scoliosis and Spinal Disorder 12;26 2017
このSchroth体操に関する臨床試験は3本の論文から構成されており、その内容は ブログStep by step側弯症ライブラリー[Schroth文献の再整理 →もう一度読み直して、コメント追記しました] を参照いただければと思います。
ブログ内にて示したことですが、この臨床試験からはSchroth体操が思春期特発性側弯症治療において、「装具」のみの場合よりも効果があった。という結論は導き出せないと考えます。 また肋骨隆起に関するデータは見当たりませんでした。
◇2017年 Kwan KYH et al : Effectiveness of Schroth exercises during bracing in adolescent idiopathic scoliosis: results from a preliminary study-SOSORT Award 2017 Winner . Scoliosis Spinal Disord. 2017 Oct 16
上記と同じ2017年に発表された臨床試験報告ですが、上記とは別の試験となります。こちらもブログStep by step側弯症ライブラリー[Scoliosis schroth(側弯・シュロス) で PubMed検索:トップ20の医学文献の和訳:中間報告3] 並びに [Scoliosis schroth(側弯・シュロス) で PubMed検索:トップ20の医学文献の和訳:中間報告5 (理学療法士の方へのメッセージも込めて)]に内容を説明しているのですが、上記と同様に体操が効果を示したとは考えられないものでした。
これまで検索できた、いわゆるランダム化した臨床試験報告は、装具+体操 vs 装具だけ。 あるいは、装具+〇〇〇体操 vs 装具+XXXX体操 という形で、装具が用いられていることから、体操がどう効果があったかは明確にはされていません。 体操に効果があることを証明するには、 体操だけ vs 装具だけ というランダム化臨床試験(少なくともそれぞれが数十から百人程の患者で)が必要なわけですが、そのような臨床試験報告は見つけることはできませんでした。
一方、体操系の医学報告では、いわゆる1例報告 という内容の論文を多く目にします。
☞ 1例報告 (成功した1症例を示す方法。これをもって「全て」の患者に当てはまるわけではないのですが、患者やその家族は「この1例」の結果を見て、自分(我が子)もこうなるはずと信じることになります。卑近な例えで言えば「隣の家で3億円宝くじが当たった。うちでも当たるはず」という思考パターンです。
◇Marc Moramarco et al ; Cobb Angle Reduction in a Nearly Skeletally Mature Adolescent (Risser 4) After Pattern -Specific Scoliosis Rehabilitation (PSSR) The open orthopaedic Journal 2017. 11 (suppul 9, M-4) 側弯症に特化した体操を行った リッサーサイン4のほぼ骨成熟完了の患者におけるコブ角減少
概要 コブ角45度で、手術を勧められた 15歳の患者(女子)に対して、5週間に16時間の側弯特化体操を実施した。患者はここで学んだ方法を自宅でも実施。6か月後と1年後をフォローアップした。その結果 13度のコブ角改善と肋骨隆起変形への改善がみられた。
・2015年側弯症の疑いにて家庭医にて検査。すぐに専門医への受診を勧められた ・2016年4月専門医にて精密検査。 MRI検査では脊髄神経等の異常は認められず。この時点でのコブ角は 上位胸椎(T1-T6)が 28度、中位胸椎(T6-T12)が43度、腰椎(T12-L4)が20度。またこの時点でのリッサーサインは4で、初潮から3年経過しており、骨成熟はほぼ完了。医師からは手術を勧められた。
・母親は手術ではない方法として、当院を選択した。
・当院では 1回2時間の訓練を5週間実施して、患者を教育した。その後、この体操を自宅で毎日実施することが指導され、患者はそれから4カ月間毎日この体操を自宅にて実施した。
・2016年8月からはこの体操を週4日間、自宅で実施した。
・2017年冬には、あらためて「5週間の特別トレーニングコース」に参加した。
・コブ角の変化は次のとおり
2016年2月 胸椎41度 胸腰椎27度
2016年4月 43度 20度 肋骨隆起(ATR)胸椎10度
2016年10月 32度 17度 6度
2017年4月 23度 21度 6度
これらのレントゲン撮影(左a 2016年2月、右d 2017年4月)
同患者の経過写真
☞ ネット検索によりますと、この報告をされた Marc Moramarco医師(カイロプラクテック)の背景として、ご自身の娘さんが側弯症となり、2002年にドイツに渡ってSchroth法を勉強し、その後本格的な訓練を受けて Asklepios Katharina Schroth Clinic in Germany. Dr. Hans-Rudolf Weiss医師からSchroth法の免許を取得された。とのこと。その後2007年にご自身のカイロプラクティックセンターで Schroth法をベースとして側弯症治療にあたられているようです。
PubMedにて同氏の文献検索をしてみましたところ、11報あります。
①2013年Indication for surgical treatment in patients with adolescent Idiopathic Scoliosis - a critical appraisal. 思春期特発性側弯症に対する手術では、その後50%に不具合・合併症が発生しており、何もしない場合よりも生涯にわたる結果は手術のほうがひどいことになる。整形外科等は手術を患者に進める場合は、適切にそのリスクを説明すべきである。
②2016年The Influence of Short-Term Scoliosis-Specific Exercise Rehabilitation on Pulmonary Function in Patients with AIS. 36人の思春期特発性側弯症患者に対して、5日~7日の間に24時間の側弯体操などの特別ブログラムを実施したところ、肋骨隆起の減少が見られた。
下表は、左から「胸椎コブ角・腰椎コブ角」ただしこれの改善の有無のデータはない。プログラム開始前の肋骨隆起ATR角度とプログラム後のAR角度
☞ コメント by august03 興味深い文献ですので、あらためてブログStep by stepでもご紹介したいと考えています。ここでは批判的意見を述べます。わずか1週間足らずの間の体操等でコブ角が減少することはありえませんから、このデータでもコブ角の変化を調べていないのはある意味理解もできます。 と同時に、肋骨隆起ATRの変化だけで側弯症が治る、治った。という結論をだそうとしていることの危険性が如実にここに示されていることがわかります。 (側弯症ライブラリー「医学的真実を求めて : リブハンプ改善写真に対する医学データが示すこと - ATRの改善だけを信じることの危険性)
③2016年 Postural Re-Education of Scoliosis - State of the Art (Mini-review) 脊柱側弯症の姿勢再教育 - 最先端技術(ミニレビュー) 2010年にオリジナルSchroth法を改良した新たな体操法が発表され、以来世界中の多くの機関でこの新しい方法が実施され、その臨床成績が報告されてきている。オリジナルSchroth法は、コブ角以外の側弯症による症状の改善を行う方法であった。新しい手法が、オリジナルSchroth法と同様に、(コブ角以外の側弯症による症状の)改善に効果があるかをレビューした。 Schroth, rehabilitation, and idiopathic scoliosisをキーワードとしてPubMed検索を実施し、新しい手法に関する短期成績 3報を発見し、どのよう評価方法が用いられているかを分析した。その結果、評価方法には、Angle of Trunk Rotation (ATR), Vital Capacity (VC), surface topography, electromyography, stabilometry and Cobb angleが使用されており、この手法での治療前と後では大きな改善が見られた。新しい手法は2つのランダム化臨床試験で明らかにされたように、進行リスクのあるマイルドカーブの側弯症患者に標準的に用いられるべきである。ヨガなどはそのような効果はない。
☞この論文自体には、何の具体的データは示されていない。主たる著者は Maksym Bortsov(ウクライナ、Ortech-plusリバテーションサービス)であり、Marc Moramarco氏は第二著者の位置づけ。ここで示された「新しい手法の効果を示した論文」とは、次の3本のようです。
イ・Borysov M et al : Scoliosis short term rehabilitations (SSTR) according to Best Practice standards are the result repeatable ? Scoliosis 2012, 7 (1)
ロ・Pugacheve N et al ; Corrective exrcises in multimodality therapy of idiopathic scoliosis in children- analysis of six weeks effeiciency - pilot study . Sud Health Technol Inform 2012.
ハ・Lee SG et al; Improvement of curvature and deformity in a sample of pathiets with idiopathic scoliosis with specific exercises. OA musculoskelet Med 2014, 2(1)
このうち2本は本文をPDFでダウンロード可能、1本はPubmedアブストラクトのみでしたが、内容を確認することはできました。
Step by step側弯症ライブラリーの中の「カテゴリー:側弯症と体操療法」で示したSchroth体操関連と同じで、まったく中身の乏しい医学論文からはかけ離れたものと言わざるえませんでした。
理由1.発表された媒体が、オープンアクセスであり、精密に査読されたものとは言えない。 理由2.患者データ一覧や、分析した表(テーブル)もなく、患者背景や経過観察の経過をレビューすることもできない。 理由3.体操療法を実施後のフォローアップがあまりに短く(2カ月)、 理由4.イの論文「SSTR」は基本的に装具療法実施中の患者に対して実施されたものであって、体操療法自体の効果を示したものとは言えない。
④Sy N, Bettany-Saltikov J, Moramarco M. ; Evidence for Conservative Treatment of Adolescent Idiopathic Scoliosis - Update 2015 (Mini-Review). Curr Pediatr Rev. 2016;12(1):これまでの体操療法の概要を説明したもの。新規性はない。
⑤Sy N, Borysov M, Moramarco M ; Bracing Scoliosis - State of the Art (Mini-Review).Curr Pediatr Rev. 2016;12(1): 装具治療の概要を説明したもの。新規性はない。
⑥Weiss HR, Moramarco M.: Congenital Scoliosis (Mini-review).Curr Pediatr Rev. 2016;12(1) 先天性側弯症の治療における手術治療を批判する意見。
⑦Weiss HR, Moramarco M: Postural Rehabilitation for Adolescent Idiopathic Scoliosis during Growth. Asian Spine J. 2016 Jun;10(3)
⑧Weiss HR, Karavidas N, Moramarco M ; Long-Term Effects of Untreated Adolescent Idiopathic Scoliosis: A Review of the Literature. Asian Spine J. 2016 Dec;10(6) 文献リサーチにてSchoth体操の経緯と概要説明。新規性のあるデータをしめしたものではない。
⑨Weiss HR, Moramarco M.: The Changing Paradigm in the Management of Spinal Deformities. Open Orthop J. 2017 Dec 29; これも単に体操療法の概要を説明したもの。
☞ カイロプラクテックのMoramarco M氏の名前が提示されている文献をPubmedから検索したわけですが、同氏は2002年頃に Schroth法の研修を終え修了書を受けて、2007年にはご自身の経営する側弯センターを始めた。という履歴がHPに述べられているのですが、現在までのほぼ10年間で、同氏が著した臨床論文は1本だけであり、しかもそれは「1例報告 」のみでした。極端な言い方をするならば、10年間で成功例として報告できるのは1症例しかなかった。ということになります。
引き続きPubmed検索を続けていきます。 キーワードは「schroth, ribhump」としました。
◇Yang J et al: Effects of consecutive application of stretching, Schroth, and strengthening exercises on Cobb's angle and the rib hump in an adult with idiopathic scoliosis. J Phys Ther Sci. 2015 Aug;27(8)
(続く)
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